WORDS / MEMORY / EVERYDAY LIFE
武岡 隆ブログ
本、活字、日本語、物語、記憶、時間。日々の中でふと立ち止まったことを、武岡 隆自身の言葉で静かに綴ります。
朝露が生まれやすい、晴れて風の弱い夜
朝露の条件には、「よく晴れて、風の弱い夜」が挙げられる。この組み合わせが少し気になる。晴れた空も弱い風も、草へ水を運んでいるようには見えないからである。
実際に水滴となるのは空気中の水蒸気だが、それだけでは朝露にならない。水蒸気が触れる相手の側に、先に変化が必要になる。夜になると、地面や草、屋根などの表面は熱を赤外線として周囲へ放出する。
日中のように太陽から熱を受け取らないため、失う分が受け取る分を上回れば、表面の温度は下がっていく。これが放射冷却である。ここで空模様が関わる。
雲がある夜には、雲からも地表へ向かって赤外線が放射される。一方、よく晴れた夜空から地表へ戻る赤外線は、一般に雲がある場合より少ない。そのため、空に開けた面ほど熱を失いやすい。
晴天は冷たさを地上へ注いでいるのではなく、出ていく熱を引き留めにくいのである。地面や草の表面が冷えると、すぐそばの空気も接触によって冷やされる。
空気が含んでいられる水蒸気の量は、温度が低くなるほど少なくなる。表面温度が露点まで下がれば、空気中に気体として含まれていた水蒸気の一部が液体になり、その面に付く。
朝になって目に入る水滴は、この順序の最後に現れたものだ。ただし、晴れて風が弱ければ、必ず露が生まれるわけではない。露点は空気中の水蒸気量によって変わり、水蒸気が多い空気ほど、より高い温度で飽和する。
反対に乾いた空気では露点が低く、表面がかなり冷えても届かないことがある。同じように晴れた穏やかな夜でも、湿度が違えば、草が濡れる朝と濡れない朝に分かれる。
空と風は冷え方を整え、湿度はどこまで冷えれば凝結が始まるかを決めている。風が弱いことにも、別の役割がある。地表付近の空気が冷えても、風があれば上の比較的暖かい空気と混ざりやすい。
表面へ熱が補われるため、温度は下がりにくくなる。風が弱い夜にはこの混合が小さく、地面や草の近くに冷えた空気がとどまりやすい。風は露を吹き飛ばす以前に、露ができる温度へ届くかどうかに関わっている。
晴れと弱風は、どちらも何かを積極的に加える条件ではない。雲が熱を返す働きが少なく、風が暖かい空気を運び込む働きも小さい。その二つが重なると、表面は日没後に受け取った熱を少しずつ手放し、露点へ近づいていく。
朝露に目を向けると、水滴そのものだけでなく、夜のあいだに補われなかった熱の存在も見えてくる。同じ夜でも、すべての面が同じように濡れるわけではない。
空へ向かって開けた面と、屋根や枝の下にある面では、放射による冷え方が異なる。覆いの下では、その覆いから赤外線を受け取るため、露が少なくなる場合がある。
わずかな位置の違いが、空をどれほど広く見ているかという差になる。また、草の葉、土、石、金属では、熱の伝わり方や蓄え方が違う。表面の形や水のなじみやすさによっても、水滴の見え方は変わる。
草の先に粒が並んでいるからといって、周囲のすべてが同じ量だけ水蒸気を受け取ったとは限らない。朝露は一帯へ均等に置かれるものではなく、冷えやすかった面を選んで現れる。
雲も風もない穏やかな夜、とだけ言えば、何も起きていないように聞こえる。ところが地表では、熱が逃げ、表面温度が下がり、触れた水蒸気が液体へ変わるところまで進んでいる。
翌朝の草に残る粒は、夜に水が降ってきた跡ではない。空へ開いていた面が、露点まで冷えた跡である。
新しい記事をメールで受け取る
武岡 隆の新しい文章が公開されたとき、メールで静かにお知らせします。
登録料・購読料はかかりません。メールアドレスはブログ更新通知のためだけに使用します。いつでも解除できます。