WORDS / MEMORY / EVERYDAY LIFE
武岡 隆ブログ
本、活字、日本語、物語、記憶、時間。日々の中でふと立ち止まったことを、武岡 隆自身の言葉で静かに綴ります。
物語の場所を考えるとき、AIから借りる不便さ
架空の部屋を「狭い」と設定しても、それだけでは人物はまだ動かない。私が気になるのは、狭さのせいで何ができないのかというところである。二人が並べないのか。
荷物を置くと扉が開かないのか。椅子を引けば、背後を誰も通れなくなるのか。場所の特徴が動作へ変わるところまで考えると、部屋はようやく場面に入り始める。
物語の場所についてAIに案を求めると、美しい眺めや印象的な名称は数多く出てくる。そうした提案が必要なときもある。ただ、場所を人物の行動に結びつけたいなら、私は魅力より先に不便さを挙げさせたい。
通路の幅、見通しを遮る物、扉の開く向き、階段の傾き、濡れた物の置き場。場所を飾る要素ではなく、そこで何かをしようとした人が困る条件である。AIは、この種の制約を数多く並べることには向いている。
人が思いつきやすい「暗い」「古い」「入り組んでいる」だけでなく、棚の前に荷物を置くと必要な物が取れない、曲がり角の先が見えず歩く速度を落とす、といった細かな候補まで広げられる。一方、出てきた不便をすべて採用すると、場所は仕掛けだらけになる。
人物が一歩ごとに何かへぶつかるのでは、暮らす場所というより障害物競走に近い。選ぶ基準は、その制約によって動詞が変わるかどうかだと思う。廊下が狭いため「歩く」が「体を横にする」へ変わる。
先が見えないため「進む」が「声をかけてから曲がる」へ変わる。段差があるため「運ぶ」が「いったん床へ置く」へ変わる。形容詞のまま残る特徴より、人物に別の動作をさせる条件の方が、場面の中では働きやすい。
物の置き場も小さく見えて影響が大きい。傘を置けなければ、誰かが持ったまま話すことになる。荷物の置き場が入口から遠ければ、帰ってすぐ腰を下ろすことはできない。
机の端が埋まっていれば、受け取った紙を別の物の上へ重ねるしかない。置けないという条件は、持ち続ける、移す、重ねる、誰かに預けるという次の動作を呼ぶ。
ただし、不便なら何でも場面になるわけではない。床がきしむことは、音を立てたくない人物には制約になるが、気にせず歩く人物には背景で終わる。低い天井も、背丈や運ぶ物によって意味が変わる。
不便さは場所だけに備わっているのではなく、その場所で誰が何をしようとしているかによって現れる。そのためAIには、「不便な点」を尋ねるだけでなく、それがどの動作を妨げるのか、誰にとって困るのか、どんな回避行動が必要かまで分けて挙げさせる方がよい。
制約と影響を一組にすると、雰囲気づくりの案と、場面を実際に変える案を見分けやすくなる。回避する必要のない不便は、珍しくても採用しないという判断もできる。
反対に、AIが出した不便へすぐ解決策を付けると、場所が整いすぎることがある。狭いなら収納を増やす、暗いなら照明を足す、と直していけば、人物が工夫する余地まで消えてしまう。
物語で必要なのは、住みやすさの改善案とは限らない。少し遠回りする、順番を変える、手に持ったまま済ませる。直されずに残った条件が、その場所で続けられてきた動作をつくる場合もある。
最後に残す不便は、AIが珍しいと評価したものではなく、書こうとしている人物の選択を変えるものになる。見通しの悪い角を急いで曲がるのか、手前で足を止めるのか。
置き場のない荷物を抱えたまま扉を開けるのか、誰かの前へいったん置くのか。場所の説明を一行増やすより、その一動作が変わる制約を一つ選びたい。
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